加工用トマトでだいじなのは収量であるが、このカゴメ93は、そこに「楽に収穫できる」という要素を加えてつくられたものだ。
こうした簡単にヘタから離れる品種は「ジョイントレス・トマト」と呼ばれる。
現在、わが社のトマトジュースは、従来のカゴメ77に替えて、このジョインドレスのカゴメ93を中心にしてつくられている。
日本の農家の高齢化を考えてのことだ。
カゴメ93は、野生のトマトの原種の中から、熟した実がその重さのために自然にヘタから離れ、地面に落ちる性質をもつものを探しだし、それと従来の栽培用トマトを交配させてつくりだしたものだ。
といっても、品種開発は気の遠くなるようなたいへんな作業で、3年や4年でできるものではない。
カゴメ石ゴメ93が登場したのは1993年、その間、じつに16年という年月がたっている。
カゴメは6500種類のトマトの種をもっており、自社の畑で栽培している。
それらをかけあわせて、味、粘度、色、収量に加えて、病気に強いという条件をクリアしたトマトジュースに最適のトマトを開発する。
口でいうのはやさしいが、すぐれた品種をつくりだすのはたいへんな仕事である。
品種開発というものは、短期間で結果が出るものではない。
研究者にとっては、それこそ一生をかけた仕事になる。
何千という種類のトマトの交配をくりかえし、目的にあった品種が出てくるまでしんぼう強く待つ、根気のいる作業だ。
1つのアイディアに結果が出るまで何年もかかるから、会社にいる間に2、3回しか勝負ができない。
もちろん、失敗することもある。
なんら成果をあげることのできないまま、研究を断念して会社を去っていく研究者もいる。
非常にきびしい世界だ。
そんなのんびりしたことをやらなくても、現代には遺伝子操作という、すぐに結果の出る方法があるではないか。
遺伝子操作なら、あっという間に目的にかなった品種がつくれるではないかという考え方もある。
しかし、遺伝子操作でつくられた品種を製品に使う意思は、私たちにはない。
トマトジュースもケチャップも、すべて従来の交配法によってつくられた品種でつくっている。
海外で調達するトマトも、PCR法(科学警察などがよく使う、遺伝子を増幅させて検出する方法)で遺伝子を組み換えていないかどうかをチェックしている。
もちろん21世紀の新しい技術、遺伝子操作の研究をおこたるわけにはいかない。
しかし、私の経験からすると、自然にあるトマトの遺伝子源を交配させたほうがずっと効率がいい。
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